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第47話 化けの皮

Penulis: 青砥尭杜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-15 21:47:55

 冷静沈着を地で行くインテンサですらその驚きを隠しきれない「終末兵器」という、この世界には未だ存在しない定義へと会話が進むことを予期していたように薄い笑みを浮かべるシーマがおもむろに口を開いた。

「我々魔道士が、その悲惨な未来を変えなくてはならない。時代という大きな流れを変えることが適うのは魔道士のみ。そして、その流れを変えるのは今、この時であるべきなのだ。テルスと酷似した世界での未来を見ているカイト卿とダイキ卿の存在はこのテルスを、我ら神祖の流れを汲む魔道士たちの手で変えてみせよというドラゴンの意思に他ならない」

 シーマが放つ言葉の力が増していると感じたカイトは、首肯してしまいそうになる自分へ抗うために先ず確認することを選んだ。

「流れを変える、というのは具体的にどんな行動を指しているんですか?」

「魔道士が統治者として世界を導く流れを作る。悍ましい兵器や世界を汚染する化学の産物の開発を止めるには、その枠組みが最も効果的で早期の実現が望める」

 カイトの問いも予期していたようにシーマはすぐさま答えを返した。

 今の自分はこの会話の流れを変える力すら持っていないと感じながらもカイトは確認するための問いを重ねた。

「この世界で影響力を持つ列強各国の王位を、魔道士が簒奪するように仕向ける……と聞こえますが」

「その通りだよ、カイト卿。世界を望むべく姿へと魔道士が導くという新たな流れは、強大な兵器を開発する土台となるであろう大国から始まるのが望ましい」

「晩餐会のゲストとして、列強の首席魔道士たちを集めたのは、この話をするためですか……?」

「正しく、この晩餐会は世界を変える「始まりの宴」となるのだ」

 カイトの問いに答えるという形の中で、シーマが今宵の祝賀晩餐会における真の趣旨を明かした。

 シーマがこの世界に対して「戦火の始まり」を宣言したようにも聞こえたカイトは「魔王に向かって自分の意思を示さないといけない局面」だと覚悟を決め、シーマに対して言い返した。

「その方法は世界に大きな混乱を招くことになります……多くの血も流れることになるでしょう」

 カイトの覚悟を労うような微笑を浮かべたシーマがすんなりと答えてみせる。

「当然だ。旧い体制の破壊と意識を変革するための混沌。その果てにこそ新たな秩序は産まれる。ゆえに産みの苦しみ味わうは必然。カイト卿、卿の云うその血の量とは、卿が知っている終末兵器がもたらす血の量よりも多いと思うかね」

「……量の比較で判断する内容ではないと思います」

「その差が歴然としている場合は判断の材料にもなるだろう。未来の多くの命、罪のない多くの民を救うための犠牲なのだ」

「俺は……まず犠牲ありき、という方針には賛同できません」

「ほう、方針と。カイト卿、卿にとって余の言葉は荒唐無稽ではないということだな」

 シーマの切り返しに、カイトが言葉を詰まらせる。

 そこまで黙してカイトの様子を見守っていたシロンが、カイトとシーマの会話に割って入るように口を開いた。

「荒唐無稽ですよ。もし仮に、我々が王位の簒奪に動いたとしても、万民の人心はついてこないでしょう」

「余はセナートで成功させたが?」

「徹底した貴種断絶と血の粛清の後に、急速な領土拡大という成果と新たな技術の獲得という時代の好機によって民衆の支持を得たセナート帝国と、現在の各国では事情が異なります」

「余はセナート帝国という成功例を用意した。事情が異なろうと参考にはなるだろう。更に云えば、新たな思想の土台ともなる技術革新は加速している。それを逆手に取るのだ。その上でセナート帝国との同盟という後ろ盾も用意する」

 シーマが「セナート帝国との同盟」という具体的な策を口にしたことで、会話の主導権を握られる危惧を抱いたシロンはすかさず反論した。

「セナート帝国での成功例は、地政学的な有利があったからです。国内の混乱によって他国から侵攻される危険が増す他の国、特に西方の列強各国に適用できる成功例ではありません」

「セナート帝国は同盟への協力を惜しまん。軍事的にはもちろん経済的にも後押しする。適用できるかどうかは地政学というよりも、筆頭魔道士団の長である卿らの求心力如何だろう。その点、今宵この場に集った卿らには、その英雄たる資質が備わっている」

 そこまで表情すら動かさずに会話へ入ることをしなかったトゥアタラが「英雄」という言葉に反応して口を開いた。

「買いかぶりですよ。少なくともオレは、戦場での全権代理人であってそれ以上ではないし、それ以上は望まない」

 トゥアタラは片眉を上げた微笑を浮かべながらも、シーマの提言に対して否定する態度を明らかにした。

 乗っておくべきタイミングだと感じたカイトも、

「俺も望みません。強大な魔法を用いる生体兵器という圧倒的な暴力装置にもなりかねない魔道士は、戦場に限定された全権代理人以上の存在になってはいけないと考えます。為政者と軍人は別であるべきです」

 とトゥアタラに同調する態度を示した。

 トゥアタラとカイトが示した態度を満足げな笑みで受け止めたシーマは、ゆったりとした口調で応じてみせた。

「卿らは聡明だ。実に喜ばしい。なればこそ卿らは考えるべきなのだ。このテルスに最小の犠牲で新たな秩序を産み出せるのは我ら魔道士のみで、新たな兵器と形を変えた戦争によって、数百万、数千万という犠牲を払ってから産み出される秩序では遅すぎるという現実に起こり得る事態を」

 シーマの言葉には「理がある」と思ったカイトは思考することに集中した。

 魔法が強い力として実在し、それを行使する魔道士が魔道士団を形成することで軍隊に取って代わっているこの異世界では、自分が知っている地球での歴史よりも、かなり少ない犠牲で「次の段階」へと世界は進めるのかもしれない。

 カイトは思考の結果として至った肯定的な考えを、口には出せなかった。

 父親をミズガルズ王国から引き離し、覇権国家の魔王として君臨するシーマへの敵愾心で肯定はできないんだと思ったカイトは、その直後に思い直した。

 怖い。自分が世界の歴史に介入する存在となる恐怖のほうが断然に大きい。

 この異世界に来てから演じてきた「強者としての魔道士カイト」の化けの皮を剥がされるのが、自分にとって最大の恐怖なんだとカイトは思い知った。

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